福岡高等裁判所 昭和35年(ネ)426号 判決 1960年11月22日
控訴人 中山酉蔵
被控訴人 清田絢吾
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金二百二十六万六千円及びこれに対する昭和三十五年二月二十五日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、控訴人において「一、被控訴人は昭和三十四年十月二十五日控訴人に対し本案訴訟提起のための弁護士の選任・仮処分等申請の手続又は和解等による解決の一切を一任し、且つ控訴人が右の行為をなして、被控訴人の訴外檜垣喜七に対する債権の取立に成功した場合は、被控訴人は控訴人に対しその報酬として取立金額中より訴訟費用を差引いた残額の半分を支払うとの契約を締結した。二、原審は控訴人の行為を弁護士法第七十二条に違反するものとしているが、甲第一号証によるも弁護士は別に選任することを約しており、又控訴人はこれ等の行為をなすことを業としているものではないから、原審の認定は不当である。」と述べ、証拠として当審における被控訴本人の供述を援用した外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
当事者間に争ない控訴人の主張事実の要旨は、被控訴人は訴外檜垣喜七に対し合計金四百五十三万二千六百円の債権を有しているものであるが、右債権を取立てるためには檜垣が債権者たる被控訴人を害する目的を以て同人所有の不動産を訴外生井水速に譲渡した行為を取消すことが先決問題であるので、昭和三十四年十月二十五日控訴人に対し右詐害行為取消の本案訴訟提起のための弁護士の選任行為・右訴についての仮差押・仮処分等の申請の手続・及び和解等による解決の一切を一任し、控訴人はその報酬として檜垣に対する前記債権取立が成功した場合に、取立金額中より訴訟費用を控除した残額の半分を支払う旨の契約を締結したところ、控訴人は右契約に基いて右本案訴訟の提記については弁護士に委任を試みた外、各仮処分・仮差押申請事件については被控訴人に協力してその手続を進め、裁判所の各仮処分・仮差押決定を得たというのであり、又控訴人が弁護士の資格を有しないことは控訴人の自認するところである。そこで、控訴人主張の右契約は弁護士法第七十二条に違反する事項を目的とするもので無効であるとの被控訴人の抗弁について考察すると、弁護士でない控訴人が報酬を得る目的で被控訴人から右本案訴訟提起のための弁護士の選任行為、仮差押・仮処分等の申請の手続及び和解等による解決の一切を一任されたものであることはその主張自体により明かであり、たとえ本人に対して協力するという形式をととのえても、実質上報酬を得る目的で本人に代つて弁護士を選任し、仮差押・仮処分申請手続等をなし、又はこれ等の周旋をなすような行為はすべて同条によつて禁止されているものと解するのが相当であり、更に同条にこれ等の行為をなすことを「業とする」とは行為を反覆して行う意思を以てこれ等の行為を行えば足るものと解するところ、控訴人が前記契約に基き報酬を得る目的を以て右本案訴訟提起について弁護士に委任を試みた外、各仮処分・仮差押申請事件等一連の手続に関与していることが明かであるから、控訴人の右行為は反覆して行う意思のもとに行われたものと認めることができるので、これ等の行為をなすことを業としたものと認定するのが相当である。
以上説示のとおり、控訴人と被控訴人間の前記契約は弁護士法第七十二条に違反することが明かであり、同条はいわゆる「事件屋」等の非弁護士が不当に訴訟事件に介入して法律知識に疎い民衆から報酬を得ることを防止し以て国民の健全な法生活感情を維持しようとする公益的規定であり、同条違反の行為は同法第七十七条により刑罰の制裁を伴うものであるから、同条違反の契約は無効と解すべきである。
よつて前記契約が有効であることを前提として被控訴人に対し債務不履行による損害賠償を求める控訴人の本訴請求はその余の点に対する判断をまつまでもなく失当であるから、これを棄却した原判決は正当で本件控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 林善助 丹生義孝 岩崎光次)